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 大妻女子大学教授
 家政学部長
中村圭吾氏 
MR. KEIGO NAKAMURA


大切なのは子どものための遊び場
づくり、そこで大人がどう関わるか


子ども期に集中現象を体験付けることが
おもちゃの役割


――遊びやおもちゃの役割とは何でしょうか?


 遊びやおもちゃの役割が何かということを考えると、子ども達を夢中にさせること、つまり子ども期に集中現象を体験付けるという役割があるんですね。そういった役割がおもちゃにあるというのは、おもちゃには人を集中させる面白さがあるということです。そのあたりのことが今はあまり考えられていないというか、おもちゃ自体にはその役割が秘められているけれどもただ置いてあるだけで分からないというか、そういった傾向やケースがあるのではないでしょうか。

 子どもがあるおもちゃを触ってみて、何かつまらなそうだと思っても、誰かがやってみせることで「こんな面白いことができるのか」と分かる。そういう要素を持ったおもちゃもあると思います。

――誰かがやっているのを見て面白そうだとか、面白くなるまで教えてもらえるとか、そういったことでは、地域で子ども達同士が一緒に遊ぶことも少なくなっています。そうした環境の変化も色々な影響を及ぼしているのでは?

 兄弟や地域の子ども達同士で遊ぶことも大事ですが、やはり全体を見ることのできる親とか大人がいて、そこで関わっていける環境を作っていかなくてはいけないと思います。そういう意味では、おもちゃの良さや役割を一番知ってもらいたいのは、親として、また色々な形で子ども達に関わっていくであろう若者達なんです。ですから私にとって大学の学生達に向けて授業をすることは非常に大きな意味があると感じています。

 それからもう1つ、子ども達の成長を促すことで、子ども期に心身の機能・バランスを促進させる役割がおもちゃにはあります。でも最近は集中現象を体験付けることと成長を促すことの2つの役割が互いに関わりを無くしてしまっています。

 どういうことかというと、集中現象はすごく大事ですが、集中しすぎてバランスとか機能、成長のことをあまり意識しないようなことは良くない。例えばテレビゲームに集中しすぎて目が悪くなるとか、ずっとテレビゲームばかりやっているのに誰も注意しないとか、いわゆるバランス的な指導がされなくなっているんです。

―― 色々な遊びがある中で、その中の1つに集中しすぎるのは良くないということですか?

 ある時期に1つのことに集中するのは非常に大切なことですが、例えば目が悪くなるほどテレビゲームばかりやっていても誰も注意しないとか、それこそ幼い頃から大人になるまで1日中テレビゲームをし続けていたら、人との付き合いはちゃんとできるのだろうかといった機能面で不安に思いますよね。子ども期にバランスや機能、成長のことをあまり意識しない集中現象しか体験できていないと、いわゆるキレるという行動も起こります。

 小学校でキレやすい子どもが増えてきたというのは、学校という広い空間で、しかもたくさんの他人がいる中で、自分がそれらとどう関わっていくのかを見いだせないからなんです。特にテレビゲームは1人の空間の中で周りに邪魔されずに遊べますから。ただテレビゲームも最近は家族で身体を動かして楽しむものが出てきて、これは方向性としては良いと思いますね。

―― 良いおもちゃの条件はどのようなものだとお考えですか?

 子どもは現実の色々なものに興味を持ちますが、本物や現実のものでは危険すぎるものも多い。そうした危険を回避し、安全に遊べるものとしておもちゃはあります。最初から子ども達に本物や現実を与えていいのかというと、ある程度の発達や判断力が付いたところで本物や現実が与えられるという過程が重要だと思います。ですからまずそうした機能を果たすものですね。

 それから良いおもちゃの条件としてもう1つ挙げられるのが、おもちゃ自体に自己訂正機能や拡張機能があることです。これは絶対条件でありませんが重要なポイントではあると思います。自己訂正機能はおそらくモンテッソーリ教具で最初に取り入れられたと思うんですが、例えば1枚の長方形のカードを真っ直ぐに切った時、それを元通りにするには何通りかの方法がありますが、切り口をいびつにしてしまったら、元に戻す方法は1つしかなくなります。その1つの方法を見つけるために色々な試行錯誤や修正、訂正を重ねます。

 また「円柱さし」という教具があって、これは大きさを識別するための円柱とそれをおさめる穴が開いているブロックなんですが、直径の異なる同じ深さの穴が並んでいて、そこに棒を挿していきます。それぞれの穴にぴったりおさまるサイズの棒がありますが、太い直径の穴にはどの棒も入りますから適当に棒を挿していくと、残った穴には入らない棒が余ってしまいます。1つ1つをぴったりあわせていかないと全部の棒が収まらないということに気付くと、今度は最初から注意して棒を挿していって、全部を収めるという楽しみが出てきます。こうした働きが自己訂正機能で、モンテッソーリの教具は自己訂正機能をうまく使ったおもちゃということですね。

 それから拡張機能というのは、トミカやプラレールが良い例ですが、1つのものを買ったらそこに別の何かを足して繋げていくことができます。これも遊びとしては素晴らしい要素だと思います。すべてのおもちゃが自己訂正機能や拡張機能を持つ必要があるというわけではありませんが、そういったおもちゃがもっと増えて欲しいと思っています。

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