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 大妻女子大学教授
 家政学部長
中村圭吾氏 
MR. KEIGO NAKAMURA


大人同士の会話で優しさや面白さ
が欠けているのは大きな問題


――遊びの世界が広がっていくことに楽しみを見つけられるおもちゃということですね


 それからエピソードが生まれるおもちゃというのも良いですね。学生達に話を聞くと、誰でもおもちゃで遊んだ思い出、おもちゃにまつわるエピソードを必ずといっていいほど持っていますし、子どもの頃に遊んだおもちゃを今でも手離さずに持っている学生も結構います。そういったエピソードを持っていることが大事だと思いますし、色々な思い出が残るようなおもちゃというのが非常に大事ですね。

 ヒーロー遊びも綿々と続いていて、歴代のウルトラマンとか戦隊シリーズを展示すると子どもも学生も、そして年配の方まで、それぞれに自分の思い出が浮かんできて、世代を越えて同じものに関わっていることが分かります。そして、子どもが「お父さんも知ってるの?」と聞いたりして、親子の会話も出てきます。これもおもちゃならではのことではないでしょうか。

―― 子どもと遊び、子どもとおもちゃの関係を考えれば考えるほど、最近の子どもと母親の関係とか、子どもがおかれている社会環境の問題が気になります。子どもに対して「やめなさい」といった命令口調ばかりというお母さんや、怒鳴ってばかりいるお母さんが増えているという話もあるようです。

 確かにそういった傾向もあるとは思います。私が強く感じるのは、大人同士の会話の中に優しさや面白さが欠けてきているということで、子どもに対して優しく思いやりをもって接することを心がけていても、大人同士の会話では優しさが忘れられている。人間の行動はすべてが繋がっていますから、大人同士の会話も大事だし、母子関係でも夫婦関係でも、関係を良くするための会話なのに怒鳴っていたら良くなるものもそうはならない。叱られて理由も分からなかったら、子どもだって納得できないですよね。

 子育てに関わっている施設とかセンターのスタッフ達が、お母さん同士の会話を聞いていると「あれでは子どもの教育に良くない」と思うような話し方や内容も多いようですし、やはり親同士の会話の中に優しさがないようでは、子どもにも優しく接することはできないでしょうね。ですから施設のスタッフ達は子ども達に遊びのアドバイスするよりも、お母さん達にアドバイスすることの方が多いのが現実のようです。

 また、自分の子どもに対する関わり方が行き過ぎなのか、あるいは距離を置きすぎているのかは自分ではなかなか判断できない。ですから子育て支援の場というのは非常に大事で、そこで色々な親子の在り方を知ったり、学んだりすることができる。だから私は、子育て支援というのは例えば単に子どもを預けるための場を作ればいいという問題ではないと思っています。そうした考えの下で3年前から東京ドームシティのおもちゃ王国にインターンシップで学生達を受け入れてもらっていますが、そこでも親子の在り方というのをじっくり観察しています。

 そして、親子の在り方をどうケアするべきか、どうアドバイスするべきか、あるいは親子が楽しめる企画を何か立てられないかと、様々な活動をしています。おもちゃ王国には積み木コーナーがあるんですが、以前はあまりそこで遊んでいる光景が見られなかったんですが、今はすごく人気のコーナーになっています。これは学生達が積み木で遊ぶ面白さのモデルを写真に撮って掲示したことで、それを見て「あんな遊び方ができるんだ」「あれを作ってみたい」と子ども達もその親達も動き出した。そういった仕掛けがやはり必要なんですね。

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