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白梅学園大学
教授
無藤隆氏 
MR.TAKASHI MUTO



子どもは遊びで創造力を育み、我慢する
力とコミュニケーション能力を学ぶ


幼児から小学校低学年で
「我慢する力」を身に付けるべき


――子どもにとって遊び、あるいはおもちゃはどのような意味を持つのでしょうか?


  幼児から小学校低学年の子ども達を考えると、多くの遊びもおもちゃも、人とつながるという人間関係の面と、モノの操作につながる面の両方の組み合わせでできていると思います。特にすべてのベースとなるのがモノの操作であり、幼い子どもにとっては周りの世界そのものは複雑すぎるので、限定された世界の中で、自分の関わることができる範囲や理解できる範囲、あるいは操作可能な範囲の中で自分の力を試しながら成長していきます。そこで重要な役割を果たすのがおもちゃではないでしょうか。

 もちろん、ここで言うおもちゃというのは商業ベースのものに限らず子どもにとっては木の葉もおもちゃですから、広い意味でのおもちゃということになります。

―― 広い世界に出て行く前の予行練習ということですか?

 そうですね。もう少しするとバーチャルな世界や映像の世界、文字の世界が広がってきますが、8歳くらいまではやはり基本的には手で触れるものが重要ですから、そういった面でおもちゃで遊ぶことは発達の基本だと思います。

―― 子どもの成長といった時には心身両面の発育が欠かせないと思いますが、最近は特に心の問題というか、コミュニケーション能力の低下がよく話題になり、キレやすい子どもが増えるなど母親の不安も大きくなっています。そういった傾向に関わるような原因が乳幼児期にあるのでしょうか?

 10歳くらいまでに、もっと限定的に言えば幼稚園から小学校低学年の時期に自己抑制力を身に付けること、要するに我慢する力が育つことが大きく関わってきます。我慢といっても、やりたいことをやらせないというわけではなく、結果的には実現できるけれども回り道をするという形です。例えばスーパーでアイスクリームを買ってもらったけど今は食べるのを我慢して家に帰ってから食べようとか、そういった回り道が我慢することであって、そうした力は基本的には幼児から小学校低学年で育ちます。

 それはどうやって育つのかというと、自分がやりたいことの中で起こる衝突がきっかけになります。子ども達がやりたいことをやるというのはつまり遊びなんですが、そこで起こる衝突にはモノとの衝突と人との衝突があります。例えば、誰かと一緒に積み木で 遊ぶ時には積み木を取り合って分けなくてはいけない、というのが人との衝突です。また、積み木を高く積み上げたいのに上手くできなくて乱暴に積み上げたら途中で崩れてしまいます。

 モノというのは正しく使わないと面白くないですから、積み木は辛抱強くやるしかないですよね。それに積み木は崩してもやり直せるけれどもモノによっては壊したら元に戻らないものもありますからモノというのは大事に使わなくちゃいけないし、その特徴に合わせて使わなくてはいけません。そこにモノとの衝突があります。

 さらにモノと人をつなぐもの、それはルールです。ドッジボールをする時にはボールという道具が必要で、友達も必要です。さらに試合になれば敵と味方に分かれて、内野にいる人はボールを当てられたら外野に出るといったルールがあります。ルールを守るということはやはり我慢をしなくてはいけないし、ボールをぶつけられても外野に出たくないと言っていたらゲームにならないし、嫌だと思っても我慢しなくてはいけない。

 あるいはトランプゲームで負けた時に3〜4歳以下であれば負けるのが嫌だと泣きわめくかもしれませんが、少し成長すると泣きわめいても仕方がないし、ここは我慢をして、もう一度やってみようと考えることができます。また、ルールを破れば勝てるかもしれませんが、ルールを守って勝つことが楽しいということが5歳くらいになると分かるようになります。

 日常生活にもルールを守らなくてはいけないことがありますが、大抵は大人が言うから従うのであって、必ずしも子どもが自分の力で守ろうとしているわけではありません。きちんと遊ぶためには人とモノとルールの関係を守らなくてはいけないし、遊びというものは自分達の力で維持しなくてはならない。そこで初めて子ども達に我慢するという力が身に付くのです。

友達と遊ぶ機会や
外で遊ぶ時間が減っている

――自分のやりたいことを我慢することに意味があるということですね。その点、子ども達はおもちゃやゲームで遊ぶことが好きで、非常に身近なものですから、ルールを守るとか我慢を覚えるといったことを学ぶには最適なツールになりますね?

 そうですね。子どもも小学校高学年になればモノが無くても遊ぶことができます。おしゃべりをするとか、言葉を使って遊ぶことができますから。しかし中学年くらいまではごっこ遊びでも人形やハウスが必要で、それが高学年になると頭の中にイメージができるので人形やハウスがなくても遊べるようになります。やはり中学年くらいまでは基本的にはモノと人が必要で、モノは何でも構わないんですが、より精巧にできたものが欲しくなりますから、そこでおもちゃが活躍することになると思います。

―― 最近の親の傾向として、3歳くらいまでは積み木やブロックなどのおもちゃを積極的に買い与えても、それ以上の年齢になると文字や数の概念を教えるような教育的なおもちゃを除いて、早くおもちゃ離れをするように促す面もあるようです。

 文字を教えるとか、本を読むといったことも必要ですが、8〜10歳くらいまでは身体を使った遊びが基本で、やはり言葉のやり取りだけでは本当の意味での子どもの力は身に付きません。思考をめぐらせるにしても何かを触ったりしながら考えていますし、小学校でも数や形などの概念を学ぶための道具が入った算数セットを使うなど、学びでも遊びでもモノが不可欠なんです。

 また、1日の流れで考えれば、外に遊びに行ったり、家の中で積み木をしたり、様々な遊びが必要になります。おもちゃを機能別に分類したときに代表的なのが組み立て遊びとごっこ遊びで、小学校低学年まではこの2つの遊びが極めて重要です。

 積み木もブロックも色々なタイプがあって、2〜3歳でできるものもあれば、ちょっと複雑で5歳児でも難しいものもあります。ですから3歳になったからそろそろおもちゃは必要ないと考えるのではなく、年齢や発達に合わせておもちゃを使い分けていくことも大切ですね。

―― 学校が終わったら寄り道しないで帰宅するようにと学校も親も指導している中で、友達同士で遊ぶ機会も減っています。

 1人で遊ぶよりも、誰かと一緒に遊ぶ方がその内容はより膨らむので、そういった機会は増やした方がいいのですが、現実的には幼稚園や保育園では友達と遊ぶことができても、家の近所にはあまり友達がいないなど帰宅してから友達と遊ぶということが減っています。

 保育園は1日中でもそこで過ごすことができますが、幼稚園や小学校低学年の子ども達は昼過ぎには授業を終えて家に帰ってきま す。そこからの時間をずっと親とだけ過ごすというのは、親としても大変だけれども、子どもとしてもつまらない。だから午後の時間をもっと友達と遊べるような環境を作るべきではないかと思います。

―― 子ども達が遊ぶ時間や場所そのものも年々減っているように思うのですが?

 時間については個人差、家庭差が大きいですが、小学校低学年でいえばそれほど減っていないと思います。ただ、外で遊ぶ時間は確実に減っていますね。今、子ども達が集まって遊べる場所は保育園や幼稚園、学校しかないですから。

――ごっこ遊びは1人でも、また友達と役割分担しながらでもできますが、そのどちらも大切な遊びとなるのでしょうね?

 1人のごっこ遊びの方が想像力を働かせることにはなりますが、できれば他の子ども達と一緒にごっこ遊びをした方が話が複雑になったり、相手の思いがけない言動で発展したりしますので、より多くのことを学べるのではないでしょうか。

 例えば男の子達が集まってヒーロー遊びをするとします。1人で遊ぶ時はいつも自分がヒーローを演じることができますが、友達と一緒に遊ぶのであれば自分のやりたい役をできるとは限らないし、またそうした状況になると誰が主役をやるのかを決めたり、交代でやろうと話し合ったり、様々な交渉が出てきます。そこでコミュニケーション能力を発達させることができるわけです。

 ただし、1人でいるのが好きな子もいれば、社交性が高くて他の子ども達と一緒にいるのが好きな子もいますので、そうした子どもの性格にあわせた遊び方をすることも大切です。

―― 遊びというのは広がりがある方がより良いということでしょうか?

 そうですね。自分と相手の思惑が違っていて、そこを調整して、折り合いをつけるというのが非常に大事ですから。

―― その大変さが良い経験になっていくわけですね。また母親と子どもの関係が昔と今では随分と変わってきています。その点で心配な部分も生まれているのではないでしょうか?

 専業主婦の方もいれば共働きをしている方もいますので一律には言えませんが、専業主婦のお母さんの場合は子どもと一緒にいる時間が昔と比べて長くなっていて、それで密接すぎる母子関係というのが問題視されることもあります。

 どんなに子どものことを色々と考えているお母さんでも一緒にいる時間が長いとサービス過剰になりがちで、そういう意味ではあまり接触が長くなると問題があるし、ずっと2人でいると遊びが単調になります。ですからそこに父親が入ってくると、だいぶ変わると思います。

――ごっこ遊びの中では特に男の子は敵をやっつけるとか、勝ち負けを競うようなものが好きなわけですが、そういった遊びを今の一部の親はよく思わなくて、禁止してしまう傾向もあるようです。

 それもやはり指導の問題だと思います。暴力はもちろん良くありませんが、幼稚園などで子ども達を見ていると3〜4歳児だと実際に殴ってしまうこともあるんです。もし殴ってしまったら、先生が「そういうことはいけないよ」と教えますね。そうすると徐々に、殴るフリをするとか、場合によっては先生を悪者に仕立てて闘うとか、色々な工夫が出てくるんです。そういった遊びも5歳くらいになると結構複雑になりますね。ですから親や先生など周りの大人達が子どもにきちんと指導していれば正しく遊びが展開して いくと思います。

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